27話)
夕方になると歩に
「晩御飯なにがいい?」
と聞かれた。
「え?」
晩御飯までには帰る。と思いこんでいた真理が、戸惑った顔をして問うと、
「たまにはいいじゃないか。行こう。」
言われるままに、また頷いてしまった。
その後、夕飯の相談をするのだが、結局歩におまかせ。だ。
「ここなんだ。」
車を止めて入った店は、肩の凝らない居酒屋だった。運転手も同伴して入るが、彼には別の席を取ってもらうと歩は言う。
「酒が飲めないのに悪い。」
歩が運転手に言うと、彼はニッと笑い、
「会計は専務持ちでしょ?腹一杯食べさせてもらいます。」
言って、出口に近いカウンターの席に座った。
店内は開店して間もなくらしく、ほとんど客はいない。
通されるままに、奥まった所に腰を落として、
「まずは乾杯だよね。」
ニッコリ笑って、ビールを頼む。
飲み物を聞いた店員がいったん姿を消して、メニューを見始める歩に、
「こうゆう所、よく来るの?」
聞くと、彼は頷いた。
「部下との親睦は、なるたけ図っとかなければいかないからね。
ここの料理、結構いけるんだ。
ふわふわ厚焼き卵とか・・ゴロゴロ水で作ったこだわり豆腐。なんかも美味しいよ。
そうこれ、ジューシーチキンのタルタルソースがけ。・・これ美味しいんだ。
適当に頼んでいい?」
メニューを見て、瞳をキラキラさせた歩が、一人で盛り上がって言ってくる。真理がコクンとうなずくと、彼はまたニッコリ笑った。
ビールを持ってきた店員に、どんどん品物を頼んでゆくので、
(それ全部二人で食べれるの?)
なんて思ったほどだった。
「・・・とりあえず、そんな所で。」
(とりあえず?・・・まだ頼むの?)
目を白黒させる真理に、クスクス笑って、
「まずは乾杯!」
グラスをカチンとならして、喉を潤す。
始めの一杯は、やはりおいしかった。
「おいしー。」
真理がつぶやくと、歩はとろけるような優しい笑顔で見つめてくるのだ。
彼と二人で、初めて酒席を囲む時間の始まりだった。